大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和61年(ワ)1479号 判決

原告

渡辺茂

被告

二瓶哲一

主文

一  被告は、原告に対し一一五万四〇〇〇円及びこれに対する昭和六一年二月一五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は三分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

四  この判決は、主文第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

1  被告は、原告に対し一八〇万円及びこれに対する昭和六一年二月一五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  第1項につき仮執行の宣言。

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  原告は、昭和六〇年一〇月二九日午後一一時二五分ころ、東京都北区志茂一丁目三六番一二号先道路左端(西側)に原告所有の普通乗用自動車(品川五九ひ四五九六、以下「原告車」という。)を駐車していたところ、被告の運転する普通貨物自動車(以下「被告車」という。)に追突され、原告車は大破された。

2  本件事故現場の道路は、東京都から新荒川大橋を経由して埼玉県川口市に通ずる幹線道路であつて、被告の運転する自動車の進行方向は、現場手前約一〇〇メートル前後は緩い左カーブで、現場約三〇〇メートル先には信号機が設置されている交差点であつたから、被告としては、前方に注意し、安全運転で進行すべき注意義務があつたのに、これを怠り、高速度で走行してハンドル操作を誤つたため、被告車を道路歩道上に植えられた街路樹に衝突させ、同樹木をなぎ倒し、ガードレールを凹損させるとともに、駐車中の原告車の後部に被告車前部を激突させたものである。

よつて、被告は、民法第七〇九条により、原告の被つた損害を賠償する責任がある。

3  原告の被つた損害は次のとおりである。

(一) 原告車の引揚料 二万円

(二) 原告車の保管料 六万円

(三) 代車使用料 三万四〇〇〇円

(四) 代替車買替費用 一六八万六〇〇〇円

原告車は、本件事故により車軸を折り曲げる等大破され修理不能となつたため、原告としては、代替車を買替えることが必要となつたが、原告車と同種、同等の自動車を取得するためには一六八万六〇〇〇円の費用を要するから、右代替車買替費用全額が損害というべきである。

4  よつて、原告は、被告に対し、以上の損害合計一八〇万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和六一年二月一五日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因1の事実は認める。

第三証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いなく、右事実に、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一ないし第三号証、同第四号証の一ないし七、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、請求原因2の前段の事実を認めることができ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

してみれば、被告は、民法第七〇九条に基づき、本件事故により原告が被つた損害を賠償すべき責任がある。

二  そこで、原告の被つた損害について判断する。

1  原告車の引揚料 二万円

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一三号証と原告本人尋問の結果によれば、原告は、川口市内の石井自動車板金塗装工業所に依頼して大破した原告車を引き揚げて貰い、二万円を要したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

2  原告車の保管料

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第六号証と原告本人尋問の結果によれば、原告は、事故当時から現在まで大破した原告車を石井自動車板金塗装工業所に保管して貰つているため、同工業所から一か月二万円の保管料を請求されていることが認められるが、原告としては、修理不能となつた原告車を速かに自宅に引き取るかあるいはスクラツプとして売却処分するなどの措置をとるべきであるにもかかわらず、同工業所に依頼して約六か月間も原告車を保管して貰つているのであるから、右保管料を本件事故により被つた相当損害と認めることはできない。

3  代車使用料 三万四〇〇〇円

前掲甲第六、第一三号証と原告本人尋問の結果によると、原告は、原告車が大破して使用不能になつたため、昭和六〇年一一月四日以降石井自動車板金塗装工業所から昭和六一年四月まで代車を一日三〇〇〇円の料金で借用して使用したことが認められるところ、原告が損害として請求する額は約一一日分にすぎないから、右代車料全額を相当損害と認める。

4  代替車買替費用 一一〇万円

前掲甲第四号証の一ないし七、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告車は本件事故によつて車軸を折り曲げられるなど大破したことが認められ、右破損状況からすれば、原告においてその買替えをすることが社会通念上相当と認められるから、原告としては、被告に対し原告車の事故前の市場価額からスクラツプ価額を控除した差額を損害として請求することができるものと解するのが相当である。

ところで、原告本人尋問の結果によれば、原告は、昭和五九年五月原告車(ホンダシテイー・ターボⅡ)を新車と購入したものであり、その価額は車体本体一二八万一一〇〇円、諸費用を加えて一六〇万円を出捐したことが認められるところ、原告車の走行粁数、整備状況、使用状態、事故歴の有無などについて確定する資料がないため、原告車の昭和六〇年一〇月当時の市場価額を正確に認定することはできないが、原告車の新車価額、購入後の経過年数、税法の規定する減価償却資産の耐用年数等の諸事情を総合勘案して右市場価額を一二〇万円、スクラツプ価額を一〇万円と認めるのが相当である。

したがつて、原告は、被告に対し代替車買替費用の損害として一一〇万円を請求することができるものというべく、それを超える原告の請求は失当というほかない。

三  以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、被告に対し一一五万四〇〇〇円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和六一年二月一五月から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから、これを正当として認容するが、その余を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条を、仮執行の宣言について同法第一九二条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 塩崎勤)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例